anoが背負った使命と、作曲への意識の変化、そして本当の自由を見つけるための挑戦|アルバム「BONE BORN BOMB」インタビュー (3/4)

恋愛をテーマにした曲が増えた理由

──アニメへの書き下ろしで原作に寄り添った曲を書いている一方で、それ以外の曲に関してはこれまでと同じように自分の内面をさらけ出していますが、今回のアルバムを聴いていると、ストレートに苛立ちをぶつけるような曲は少なくなってきたのかなという印象を受けました。

でも3曲目(「骨バキ☆ゆうぐれダイアリー」)はだいぶ苛立ってますよ。

──ああ、そういう曲なんですね。3曲目は今日の取材の段階ではレコーディングも終わってないということで、まだ僕は曲名も聞いていないんですけど。

うん。苛立ちっていうか、美学を突き刺す感じです。テレビの仕事だったりが増えて、業界のことを知らなかったらできなかった曲だから。腹立つことばっかだけど、そういう場所じゃないと僕がいてもなんの意味もないんですよ。だって、そこで僕みたいな人が受け入れられるっていうことは、この世界がちょっとずつ変わってるってことじゃないですか。アングラな場所で認められても「それはそうだよね」って思う。

──確かに。

自分の歌がお茶の間に流れるなんて数年前じゃありえなかったけど、そうじゃなきゃダメなんです。自由の中に自由はない。不自由の中だからこそ自由がある。だから本当の自由を見つけるために、そういう業界に僕のままで挑戦したんです。音楽で見返したい。そして、そうやって叩かれても自由にやってる僕の存在を見た人が、ありのままで生きることを肯定してくれたらいいなって思います。

ano

──実際、肯定されたと感じている人は多いと思いますよ。SNSでも「あのちゃんに出会っていなかったらどうなっていたか」みたいな声はよく見かけますし。

うん。

──そして今回のアルバムを聴いていて気になったのが、「愛してる」という言葉が多いことで。

自分では意識してなかったけど、改めて聴き返したらそうなんですよね。歌詞って、自分も知らない自分の本音が出てることが多いから、このアルバムを作って「自分って絶対的な何かを求めてるのかな?」って思った。

──1stアルバムの歌詞には「愛してる」って言葉はほとんど出てきませんし、いわゆるラブソングもありませんでしたよね。「AIDA」という曲はありましたけど、それについてもあのさんは当時のインタビューで「これは恋愛の歌のつもりはない」と言っていましたし。

うん、恋愛のことだと捉えてもらってもいいんだけど、例えばファンと僕の関係も愛だと思ってるし、「AIDA」はもっと広い意味で書きました。

──恋愛をテーマにした曲が増えたのは、前作と今作の大きな違いの1つなんじゃないかと思ったんですが。

特に最初の頃はラブソングは書きたくなかったんです。でも曲をいろいろ作っているうちに、そういう曲も書いてみたいなって気持ちにちょっとなって。「愛してる、なんてね。」を尾崎さん(クリープハイプの尾崎世界観)と一緒に作ってたときに、2人で話してて「前回『普変』みたいな曲だったから、今回はラブソングを書いてみるのいいんじゃない?」ってことになりました。

──ああ、尾崎さんがきっかけだったんですね。ちなみにこの曲の「テレビサイズ1分30秒の光が」という歌詞は、クリープハイプの曲名「テレビサイズ(TV Size 2'30)」の引用ですよね?

やっぱり尾崎さんと作るなら、リスペクトを持ちながら自分の言葉で書かないとと思ったので。本当は歌詞も尾崎さんに書いてほしかったんですけど、「あのさんなら絶対いい歌詞を書けるから、今回は書いたほうがいいと思う」って言ってくれたんです。

尾崎世界観の作詞から受けた影響

──「愛してる、なんてね。」の歌詞で、尾崎さんから影響を受けていると感じるところはありますか?

言葉遊びの面白さですね。例えば「600w 1分30秒の光が」で電子レンジを表現してから「どうせまたすぐに冷めるくせに」って歌ったり、「やりとりはしりとり」という歌詞のあとで「運命だね」「ねぇ」「映画みたい」って実際に会話がしりとりになってたり。そういうのを入れることを普段より意識しました。

──そうそう、その部分すごくうまいなと思いました。尾崎さんには歌詞の感想は聞きました?

LINEで「この歌詞どうですか?」って、めっちゃしつこく確認しました。「怒ってないといいな」って思いながら(笑)。

──反応はどうでした?

「めっちゃいいと思う」って言ってくれて、「この感じだったら、最後にDメロも足そうか」ってことになって。最初に上がってきたメロディは「君がいなきゃ意味がない全部 君じゃなきゃ 嫌だ」の部分で終わってたんですよ。けどそのあとに最後の2行分のメロディを足してくれて。それが結果的にとてもよくて締まりました。

──この話の流れでクリープハイプのカバー「社会の窓」の話もしようと思うんですけど、トリビュートアルバムに提供した曲を自分のアルバムに入れるって珍しいなと思って。それくらい、自分の作品としてしっくりきたということなんですかね?

「人の曲なのに、いいのかな?」って気持ちもあったけど、これはけっこう世間の反応もよくて、ライブでも「あのちゃんにピッタリすぎる」っていう声が多かったから、入れさせてもらいました。

──あのさんが歌っているのが、すごくしっくりくるんですよね。

歌詞があまりにも自分にヒットして、「楽曲提供されてる」みたいな気持ちになる。

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──「愛してる、なんてね。」に出てくる「普通にしたら可愛いとかほざいてくる常連客」というフレーズを聴いて僕は、「社会の窓」で歌われるリスナー目線の歌詞「曲も演奏も凄く良いのに なんかあの声が受け付けない もっと普通の声で歌えばいいのに」を連想したんですよ。シングル「愛してる、なんてね。」とクリープハイプのトリビュートアルバム「もしも生まれ変わったならそっとこんな声になって」は発売タイミングが近かったし、あのさんは「社会の窓」で得た共感を「愛してる、なんてね。」に落とし込んだのかな?なんて思っていました。

うん。声のことは一生言われてるんで。みんなの印象が「変な声」ってことばっかりで、僕が話してる内容とか全然聞いてくれないし、自分の声がすごくうっとうしくなってたんです。でも今はその声が職業になってるし、自信を持ってこういうことを歌えてる。

──本当にその通りだと思います。声と言えば「Bubble Me Face」でも「キモい声とバブみフェイス」と繰り返し歌ってますよね。

「Bubble Me Face」は「F Wonderful World」の最新版を作ろうと思って。

──どちらもテレビ朝日系「あのちゃんねる」のテーマソングですもんね。確かに「Bubble Me Face」は「F Wonderful World」のアップデート版みたいな印象はありましたし、あとは「swim in 睡眠Tokyo」も「Peek a boo」のテイストを引き継いでいたりして、メジャーデビュー前からの作風の連続性を感じました。

実は「swim in 睡眠Tokyo」を書いたのは「Peek a boo」とかと同じ時期なんです。

──あっ、そうなんだ。ということは5年前?

それを今さら出す(笑)。録音も当時してたんだけど、今回改めてやり直してます。ライブでもたまにやってて「いつか出したいね」って話はしてたんだけど、「1stアルバムじゃないな」ってことで入れてなかった。